JSH基礎研究推進部会

2026-10-22

活動報告
~第48回日本高血圧学会総会に寄せて part 2~

【開催報告】基礎研究推進部会企画シンポジウム「高血圧の成因を分子基盤から読み解く」

総会初日の最終プログラムを飾った本セッションでは、概日リズム、腎心連関、自律神経・免疫連関、腸内細菌叢といった多彩な先端領域から、高血圧および循環器病態の分子基盤に迫る最新の基礎研究成果が発表され、活発な議論が交わされました。

講演ハイライト

【BRC-1】 慢性非活動期間欠的低酸素によるnon-dipper型血圧の腎機序

演者:上田 浩平 先生
国際医療福祉大学医学部 生理学

睡眠時無呼吸症候群(SAS)に伴う夜間血圧低下不全(non-dipper型)の病態解明に向け、マウス非活動期の慢性間欠的低酸素(IH)モデルを確立。腎臓におけるSPAK/OSR1キナーゼのリン酸化およびNCC、NKCC2の活性化による体液貯留がnon-dipperパターンの成立に関与することを解明し、腎臓を標的とした新たな治療介入の可能性が示されました。

【BRC-2】 概日時計と免疫がつなぐ腎-心連関:CKD関連心炎症・線維化の分子基盤

演者:吉田 優哉 先生
九州大学大学院薬学研究院 薬物動態学分野

慢性腎臓病(CKD)における心不全・線維化合併の分子機序を解明。腎機能低下に伴うレチノール/RBP4蓄積が循環単球の時計遺伝子(CLOCK/BMAL1)を介して受容体GPR68の発現を亢進させ、心臓炎症を惹起する「概日時計と免疫が介在する腎心連関」を提示。新規ヒトGPR68阻害剤による心機能改善効果など創薬への展望も発表されました。

【BRC-3】 マクロファージを介した神経免疫性血圧制御機構

演者:井上 剛 先生
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 内臓機能生理学

自律神経シグナルと免疫細胞による長期的な血圧制御機構を報告。アセチルコリン(ACh)刺激を受けたマクロファージが形質変化を起こして腎臓に集積し、ヘンレ上行脚のNKCC2を介してナトリウム再吸収を亢進させ血圧を上昇方向に再設定する「神経免疫連関」を提示。古典的な降圧・抗炎症シグナルであるAChの新たな病態生理学的役割が示されました。

【BRC-4】 Bacteroidesから紐解く腸内細菌と血管炎症―高血圧・心血管疾患の新たな理解―

演者:吉田 尚史 先生
国立循環器病研究センター研究所 先端医療技術開発部

動脈硬化抑制作用を有するBacteroides属細菌に着目し、その特有な脂質A(lipid A)構造によるTLR4を介した自然免疫の過剰活性化抑制や、褐色脂肪組織・アミノ酸代謝を介した全身性代謝改善機構を解明。腸内細菌が単なる代謝産物供給にとどまらず、宿主免疫・代謝を統合制御して血管恒常性を維持する新たな治療標的としての展望が語られました。

総括

本シンポジウムを通じて、生体リズム・腎心連関・神経免疫・腸内環境といった生体システムの緊密な相互作用が高血圧の成立・維持に果たす重要性が再確認され、フロアを交えた熱心な議論が展開されました。それぞれの先生方のご研究の機序において、どのような生活習慣の改善が高血圧予防として介入できるかお尋ねしたところ、早寝早起き(神経・リズム)、規則正しい生活(神経・リズム)、体に良いものを食べる(腸内細菌)とご回答いただきました。そういえば幼いころより言われていることのような・・・先人の知恵は科学的根拠があったということでしょうか。

基礎研究推進部会では、今後も高血圧の成因に迫る先進的な基礎医学研究の推進と情報発信に努めてまいります。ご登壇いただいた演者の先生方、ご参加いただいた皆様に心より御礼申し上げます。

高血圧の成因を分子基盤から読み解くシンポジウムの全体概要図
図:シンポジウム「高血圧の成因を分子基盤から読み解く」の全体概要

本シンポジウムで発表された4つの演題における分子機序と多臓器連関の模式図。

BRC-1:慢性非活動期間欠的低酸素(夜間低酸素)によるNCC・NKCC2活性化と体液貯留を介した夜間血圧低下不全(Non-dipper)の誘導機構。

BRC-2:CKDに伴う血中レチノール/RBP4蓄積が単球の体内時計(CLOCK/BMAL1)を介してGPR68発現を亢進させ、心臓炎症・線維化を惹起する腎心連関。

BRC-3:自律神経末端からのアセチルコリン(ACh)刺激により形質転換したマクロファージが腎に集積し、NKCC2活性化・Na⁺再吸収を介して血圧を上昇させる神経免疫連関。

BRC-4:Bacteroides属細菌由来LPS(脂質A)による自然免疫の過剰活性化抑制と、全身代謝改善を通じた血管炎症・動脈硬化の抑制機構。

(Illustration: Kawarazaki W., assisted by Gemini)